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第4回 バーチャルペットは人に良い影響を与えるのか? (2)

3.調査の目的

 これまで、オンライン型のバーチャルペットの開発に関する論文は発表されてきているが、バーチャルペットに対する人の印象や、人にどのような影響を与えるのかに関しては、調査が少ない。非オンライン型のnintendogsの人に与える影響に関しては、Chesney& Lawson (2008)[4] による研究があり、自尊心を向上させ、情緒的な効果があるとしている。また、Altschuler (2008)[6] による自閉症児にバーチャルペットを与えることにより、現実世界との関わりへの手がかりを探る研究もある。
 そこで、オンライン型のバーチャルペットに対してどのような印象を持つのか、会話をすることによって、どのような影響を及ぼすのか、大学生に対して調査を行うことを本稿の目的とする。
 学生らは、4つのタイプのバーチャルペットのうち、どのタイプが、好きか?愛着をもつか?癒されるのか?などについて調査を行うことにより、バーチャルペットの人との関係の可能性や教育現場での活用方法を探る。


4.研究の方法

4-1 調査項目
 Y大学およびW大学の128名の学生に対して、ペットとの会話を試みた上で、以下の項目に関して、アンケート調査を実施した。学生らは、会話をした日ごとに日々の記録を残し、最後に、アンケート調査を行った。リアルな世界のペットであっても、毎日義務的にペットと遊ぶことはしない。1ヶ月程度の期間を与え、そのうち1週間程度はペットと会話することとした。

(1)日々の記録
 ペットと会話したときには、以下の項目について記録することを依頼した。
① 開始時間 (  時  分) 開始 :
② 会話を始める前の気分:
「とても落ち込んでいる(1)」から「とても爽快な気分(10)」までの、10段階で、数字で回答してください。
③ 会話の記録をペーストしてください。 
④ 会話を終えたあとの気分: 項目は②と同じ。
⑤ 終了した時間  (  時  分) 終了 

(2)終了後のアンケート
①ペットに対する気持ち
大変好き(6)~大変嫌い(1)までの6段階で回答を求めた。
②1週間あたり、平均何回ぐらいペットと会話をしましたか。(   )回
③以下の項目に関して、「大変そう思う」~「全くそう思わない」まで、6段階で回答を求めた。③の項目は、Chesney & Lawson (2008)[4] , Lawson & Chesney (2008)[5] によって実施された「ペットから得られる快適さ尺度(The Comfort from Companion Animals Scale)」の11項目である。
 私のペットは私に付き合ってくれる仲間だ。
 ペットを飼うことは私に何か思いやるものを与えてくれる。
 私のペットは私に楽しい活動を与えてくれる。
 私のペットは私の生活の安定の源である。
 私のペットは私が必要とされていることを感じさせてくれる。
 私のペットは私に遊びと笑いを与えてくれる。
 ペットを飼うことは私に何か愛するものを与えてくれる。
 私は私のペットに触れる事で心が慰む。
 私のペットを見ているのは楽しい。
 私のペットは私が愛されていると感じさせてくれる。
 私のペットは私が信頼されていると感じさせてくれる。

④様々なバーチャルペットの印象について
以下の項目に関して、「大変そう思う(6)」~「全くそう思わない(1)」まで、6段階で回答を求めた。
 私はバーチャルペットと会話をすると癒された気分になる(バーチャルペットのタイプは特に特定しない)。
 マウス操作反応タイプ(nyantaと名付けた。会話はしない。ペットをなでたり、えさをやったり、マウスの操作によって動きがあるタイプ)
   nyantaは好感が持てる。
   nyantaに愛着を感じる。
   nyantaは、癒された気分になる。

 ブログ内容をランダムに読むタイプ(「わんた」と名付けた。ブログの記述内容を読み取り、独り言をつぶやくタイプ。マウスの操作によって動きがあるタイプ。)
   わんたは好感が持てる。
   わんたに愛着を感じる。
   わんたは、癒された気分になる。

 一対一記憶センテンスを表示させるタイプ (「ひこたま」と名付けられている。語りかけると必ず何か返事をする会話中心。マウスの操作によって動きがないタイプ)
   ひこたまは好感が持てる。
   ひこたまに愛着を感じる。
   ひこたまは、癒された気分になる。

 アバター(自分の分身)とペットが、会話をしたり遊んだりするタイプ(利用者が自分でペットの名前を付ける)
   スプリュームのペットは好感が持てる。
   スプリュームのペットに愛着を感じる。
   スプリュームのペットは、癒された気分になる。

⑥ バーチャルペットに期待することは何ですか?
・会話 :  はい   いいえ
・マウスの操作によって動きがあること: はい   いいえ
・ペットと一緒にアバター(自分の分身)も表現できること :   はい   いいえ
⑦ リアル世界ではペットを飼っていますか?    はい   いいえ


4-2.分析方法

(1)開始前と開始後の気分の変化
① 性差
 開始時と終了時の気分に性差はあるのか、分散分析によって調べる。また、リアルにペットを飼っているかどうかとの関連も考察する。
②バーチャルペットとの会話時間
 バーチャルペットとの会話時間を次の5段階に分類し、開始時と終了時の気分に会話時間の違いはあるのか、分散分析によって調べる。
   0~5分 1
   6~10分 2
   11~15分 3
   16~20分 4
   21分以上 5

(2)会話回数
 会話回数5回以下を会話回数低群、会話回数6回以上を会話回数高群として、会話回数によって、ペットに対する気持や、ペットから得られる快適さがどう違うのか比較する。

(3)様々なバーチャルペットの印象について
 4タイプのバーチャルペット(マウス操作反応タイプ、ブログ内容をランダムに読むタイプ、一対一記憶センテンスを表示させるタイプ、アバターとペットが、会話をしたり遊んだりするタイプ)に対し、3観点(「**は好感が持てる」「**に愛着を感じる」「**は癒された気分になる」)について6段階で回答した結果を比較する。

(4)バーチャルペットへの期待
 下記の3項目、
・会話
・マウスの操作によって動きがあること 
・ペットと一緒にアバター(自分の分身)も表現できること 
について、「はい」か「いいえ」で回答を求めた結果について比較する。

(5)会話内容
 会話内容をソフトウェア「トレンドサーチ」を用い、テキストマイニングを行う。これは、会話文(対象テキスト)を、品詞分解し、出現頻度の高いキーワードをノードとみなし、頻出するノードとノードの関連の高さを距離で表現する方法である。


5.結果

(1)開始前と開始後の気分の変化
①性差
 開始時と終了時の気分に性差はあるのか、分散分析によって調べた。その結果、男女を合わせた全体では、気分の変化は見られなかった(n.s.)が、開始時(F(1)=4.26, p<.05)と終了時(F(1)=11.41, p<.01)の気分に性差が見られた(図5)。開始時の気分は、男性の方が高かったが、終了時には女性よりも気分が低下している。図6に示すリアル世界でのペットの有無の結果を見ると、女性よりも男性の方がリアル世界でペットを飼っている割合が高く(χ2(1)=10.31, p<.01 )、男性の気分が低下した理由は、リアル世界でペットとの会話で得られる気分を期待してバーチャルペットと会話をしたものの、リアルのペットにはかなわなかったのではないかと考えられる。

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図5 男女別の開始時・開始後の気分の平均値


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図6 リアル世界でのペットの有無

②バーチャルペットとの会話時間
 開始時と終了時の気分に会話時間の違いはあるのか、分散分析によって調べた。その結果、開始時(F(4)=4.58, p<.01)と終了時(F(4)=3.56, p<.01)の気分にバーチャルペットとの会話時間差が見られた(図7)。

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図7 会話時間別の開始時・開始後の気分の平均値

(2)会話回数
 会話回数の違いとペットに対する気持ちをχ2検定によって調べた。その結果、会話回数高群(6回以上)の方がペットに対する好感度が高く、会話回数低群(5回以下)は好感度が低かった(χ2(5)=14.045, p<.05 図8)。

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図8 会話回数とペットに対する気持ち

 また、会話回数の違いとペットから得られる快適さを分散分析によって調べ、結果は表1に示した。
 「⑦」番以外のすべての項目において、有意な差が得られ、会話回数高群(6回以上)の方が、高い得点を示した。⑦に関しては、やや有意に、会話回数低群(5回以下)の方が、高い値を示した。


表1 会話回数とペットから得られる快適さ

人数平均値標準偏差F (1)=各値有意確率

①私のペットは私に付き合ってくれる仲間だ。

5回以下
673.208961.6472
 
6回以上
613.819671.56533
 
全体
1283.51.631394.6015724p<.05

② ペットを飼うことは私に何か思いやるものを与えてくれる。

5回以下
673.17911.48656

6回以上
613.950821.47678
 
全体
1283.546881.525948.6589479p<.01

③私のペットは私に楽しい活動を与えてくれる。

5回以下
672.925371.42822
 
6回以上
613.803281.53644
 
全体
1283.343751.5391911.223622p<.01

④私のペットは私の生活の安定の源である。

5回以下
672.567161.49974

6回以上
613.344261.68211

全体
1282.93751.630187.6346976p<.01

⑤私のペットは私が必要とされていることを感じさせてくれる。

5回以下
672.626871.42314

6回以上
613.50821.67951

全体
1283.046881.6063810.31618p<.01

⑥私のペットは私に遊びと笑いを与えてくれる。

5回以下
672.805971.57863

6回以上
613.75411.55623

全体
1283.257811.6325711.674364p<.01

⑦ペットを飼うことは私に何か愛するものを与えてくれる。

5回以下
674.164181.97405

6回以上
613.606561.7251

全体
1283.898441.873312.8708189p<.1

⑧私は私のペットに触れる事で心が慰む。

5回以下
672.82091.56598

6回以上
613.639341.73237

全体
1283.210941.691357.8818534p<.01

⑨私のペットを見ているのは楽しい。

5回以下
672.970151.52723

6回以上
613.803281.66152

全体
1283.367191.640398.7379803p<.01

⑩私のペットは私が愛されていると感じさせてくれる。

5回以下
672.776121.49566

6回以上
613.393441.76332

全体
1283.070311.651454.587595p<.05

⑪私のペットは私が信頼されていると感じさせてくれる。

5回以下
672.746271.55059

6回以上
613.327871.7197

全体
1283.023441.652794.0486298p<.05

(3)様々なバーチャルペットの印象について
 様々なバーチャルペットの印象について回答を求めた結果を比較した。
 4タイプのバーチャルペット(マウス操作反応タイプ、ブログ内容をランダムに読むタイプ、一対一記憶センテンスを表示させるタイプ、アバターとペットが、会話をしたり遊んだりするタイプ)に対し、3観点(「**は好感が持てる」「**に愛着を感じる」「**は癒された気分になる」)について6段階で回答した数値の平均値を図9に示した。その結果、マウス操作反応タイプ、ブログ内容をランダムに読むタイプ、一対一記憶センテンスを表示させるタイプには、大差は見られなかったが、アバターとペットが、会話をしたり遊んだりするタイプに関しては、3観点のいずれも他よりも低い値を示した。
 尚、「私はバーチャルペットと会話をすると癒された気分になる(バーチャルペットのタイプは特に特定しない)」については、「性差」及び「リアル世界でのペットの有無」について分散分析によって調べたが、いずれも有意な差は得られなかった(n.s.)。

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図9 バーチャルペットの印象

(4)バーチャルペットへの期待
・会話
・マウスの操作によって動きがあること 
・ペットと一緒にアバター(自分の分身)も表現できること 
について、「はい」か「いいえ」で回答を求めた結果を図10に示した。これを見ると、85%の人が、会話機能を求めている一方で、アバターの存在は、約41%の人が期待していなかった。

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図10 バーチャルペットへの期待

 「会話」「動き」「アバター」それぞれに対し、「性差」及び「リアル世界でのペットの有無」についてχ2検定によって調べた。その結果、「マウスの操作によって動きがあること」×「リアル世界でのペットの有無」については、有意であった(χ2(1)=5.06, p<.05 )。そして図11より、リアル世界でペットを飼っている人は、飼っていない人よりも、バーチャルペットに対し動きを期待していることがわかった。このほかの組み合わせについては、「性差」及び「リアル世界でのペットの有無」いずれも有意な差は得られなかった(n.s.)。

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図11 「動き」×「リアル世界でのペットの有無」


(5)会話内容
 バーチャルペットとの会話の後に、気分がよくなった人もいたが気分が下がった人もいた。そこで、気分がよくなった会話例と気分が低下した会話例を比較した。会話例は注に示す。
会話の流れを比較して最も顕著であると思われる点は、「会話が成立しているか否か」である。注に示す「気分が低下した例」に示すように、ペットと飼い主の会話がちぐはぐになっている。ペットが飼い主に期待する会話を返すことができていない。一方で、「気分がよくなった例」では、うまく会話が成立している。さらに、メイド喫茶のメイドのように「おかえりなさいませご主人様」などと、飼い主を癒す言葉を返している。
 バーチャルペットの発話は、バーチャルペット自身が意思を持って発話をしているのではなく、すでに記憶されプログラムされた言葉の中から、選んで表出しているにすぎない。語りかける飼い主の発話が、すでにプログラムされている想定内の発話であれば、的確な応答ができ、うまく会話が成立する。だが、プログラムされていない言葉が語りかけられると、意図しない応答をし、ますますちぐはぐな会話となる。

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図12 会話内容のノード分析

 そこで、どのような言葉が飼い主とペットの間で交わされたのか分析するために、「トレンドサーチ」を用いたテキストマイニングを行った。マッピングの結果を図12に示した。頻出回数の高さは、ノードを囲む枠の濃淡で示されており、濃いものほど頻出回数が高かったノードである。
 主なキーワードとして「コトバ」「団子」「好き」が抽出され、もっとも多くのキーワードと結びついたキーワードは「コトバ」であった。たとえば、「わからないコトバでござる。もう一回カンタンなコトバで言って欲しいな」などのように、ペットが理解できなかった会話を聞き返している場面が多い。ペットが理解できない言葉を何度も聞き返すことも、気分を低下させる要因であろう。

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